Serpentine

初稿:

昔昔の大昔。
あるところに神様と魔物がおりました。

神様も魔物も、この世を統べる者になりたくていつも二つの勢力は争いを繰り返しておりました。

ある日、神様と魔物の間で、大きな争いがありました。
長い戦いの末、とうとう魔物の軍勢は負けてしまいました。
魔物たちはみな、地の底に叩き落されてしまいました。
神様の軍勢の中で、一番の手柄を立てた天使がおりました。
神の右腕とも呼ばれ、すべての天使から尊敬を集めていた者でした。
彼は神様の使いとして、魔物たちに刑を処すべく地の底に下りてゆきました。

地の底に辿り着いた天使を迎えたのは、魔物の総大将でした。
蛇の鱗に身を包み、緑色と金色に光る瞳を持った、それはそれは美しい魔物でした。

その魔物は天使に頼みました。

「どうか罰するのは自分だけにしてくれないか。俺の部下達は皆俺についてきてくれただけなのだ。
どうか連中を見逃してやってくれないだろうか。その代わり自分はどんな厳しい刑罰でも受けるから」

天使は魔物のその心に打たれ、 神様の元へと帰り、魔物達を許してやってくれるよう頼みました。

しかし、神様は天使の祈りを聞き入れず、神様自ら魔物達を地の底へと封印し、
その総大将は特別に重い刑である、氷浸けの刑にしてしまいました。

天使は驚き嘆き、 大急ぎで魔物の元へと向かいました。
氷に包まれようとしている魔物の総大将は 嘆く天使を笑顔で迎え、

「あんたのせいじゃないから。気にしないで。でも時々は俺の部下達のことも気にかけてやってね」

と言い残して、氷の中へと消えてゆきました。

氷の中で眠る魔物の総大将を見つめながら 天使は憤りました。元々、今の神様も魔物も、同じく神だったのです。
神同士の争いの中で、負けたものが魔物になり、勝ったものが神となっただけなのです。
それなのに、これはあんまりな処遇ではないだろうか。
自分を唯一神と称するために、他の神々を魔物へと変え、地の底に封印するなんて、

これが神のすることだろうか。

自分の力の至らなさと、主(あるじ)への不信に苦しむ天使の心に、先ほどの魔物の言葉がよみがえりました。

「俺の部下達を頼む」

その時、天使は、 自ら神を裏切る決意をしました。

天使は自分の背中で輝く12枚の白い羽を自らの意思で漆黒に染め上げました。

頭上で光る「神の使いの証」でもある輪を足元へと投げつけながら天使は叫びました。

「私はこれ以後、あなたに代わって、魔物を統べる者となる。いつかいつか、神を倒し、
あなたを氷の底から助け出すまで。それがどんなに果てしなく険しい道であろうとも
必ずあなたをもう一度よみがえらせてみせる!」

氷の中で眠る魔物に、天使はそう誓い、地の底へと降りてゆきました・・・。

その天使の名はルシフェル。
「光を運ぶ者」という意味を持つ、明けの明星。
氷の中で眠る魔物をいつの日かよみがえらせるまで彼の代理として神と戦う定めの者。

そして、氷の中でルシフェルを待つ魔物の名はサーペンティン。
ルシフェルが愛した、ただ一人の者。

初稿: