「レムリアンシード」は本当に『古代の記録媒体』なのか【意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える】
まずは『曇りガラス』の話から
曇りガラスって、どうやって作るかご存じですか。
実は、ガラスの表面を酸(正確にはフッ化水素:HF あるいは関連酸)でサッと溶かして、細かな凹凸(おうとつ)をつくるだけ。デコボコした表面に光が当たると乱反射して白っぽく曇って見えるのです。(サンドブラスターっていう機械でガラス表面に砂などの研磨剤を吹き付けてデコボコを作る場合もありますよ)
化学式でいうと二酸化ケイ素(SiO₂)がフッ化水素(HF) と反応してフッ化ケイ素類(SiF₄ や H₂SiF₆)になる、という超メジャーな反応。つまりシリカ(SiO₂)をフッ化水素(HF)で溶かすと表面がざらつく、これが“曇り”の正体です。
で、ガラスの主成分はシリカ。水晶の正体もシリカ(SiO₂)。違いはガラスは非晶質、石英(水晶)は結晶質という点くらいで、どちらもフッ化水素には弱い―ここが、今回のテーマの基礎となります。
「火山ガスに含まれるフッ化水素で“模様”ができる?」―出来るとも!
火山ガスの主成分は水蒸気・二酸化炭素・二酸化硫黄ですが、微量成分としてフッ化水素(HF)も含まれることが知られています。実測データを積み上げてきた米国地質調査所(USGS)でも、「キラウエア(Kīlauea)などの火山ガスにフッ化水素は微量成分として含まれる」と解説しています。微量でも、長い時間や適切な条件が重なれば、シリカ(石英:水晶も「石英」)表面に「エッチピット(=溶蝕孔:結晶表面を特定の薬品で腐食させた際にできるくぼみや孔のこと)」や筋状の痕は発生するでしょう。
そして実際、石英の結晶面には自然の「エッチピット」や「成長条線(ストリエーション:「成長線」ともいう。超簡単に説明すると、水晶が大きくなってゆく過程において、成長速度の差によって出来る模様のこと。一定速度で大きくなってゆくわけじゃないからね)」がふつうに見られます。専門サイトや論文でも「石英の柱面は横方向の成長条線を示すのが一般的」「三角形に近い溶蝕痕が生じることもある」と説明されています。要するに、バーコードみたいな線や小さな三角印は、化学的溶蝕や成長の「癖」で十分に説明できる現象なのです。
「レコードキーパーの三角形」は何者?
水晶の先端面に現れる小さな三角形を、スピリチュアルな界隈では「レコードキーパー」と呼び、「古代の記録が刻まれている」と説明されることがあります。でも、鉱物学的には成長や溶蝕に由来する自然の模様で説明がつきます。論文や顕微観察でも、結晶面に幾何学的な「ピット(くぼみ)」が形成されることは珍しくありません。
ここで大事なのは、「模様が神秘か科学か」ではなく、「模様が“自然にでき得る”かどうか」。
結論は“できる”です。
「レムリアンシード」は鉱物学の用語?――いいえ、商品名・俗称です
鉱物データベースの MINDAT (いつもお世話になっております) でも、“Lemurian Seed Crystal = Quartz(ただの石英の同義語)”と扱われ、鉱物学的な分類・名称ではないと明言されています。
要するに、市場での呼び名なんですね。産地説明としてブラジル・ミナスジェライス(セーラ・ド・カブラウ)などが語られることはありますが、それは商業的なストーリーで、学術的な定義ではありません。
また、レムリアンと称される水晶に特徴的とされる「バーコード状の横スジ」は、さっきも説明したとおり、ごく一般的な成長条線です。これも「レムリア人からの暗号」ではなく、結晶が育つときの自然な段差なんです。
では「レムリア大陸」自体は存在したの?
結論から言うと、現在の地質学では否定されています。
レムリアは1864年、動物学者フィリップ・L・スレーター(Philip L. Sclater)が「マダガスカルとインドのキツネザル類縁の分布を説明するために提案した仮説上の陸橋(沈んだ大陸)」でした。
当時は大陸移動論(→後のプレートテクトニクス)が未発達で、動植物の分布の謎に「沈没大陸」で答えるのが流行だったのです。まぁ「マントル」の概念とか無かった時代だしね、これはしょうがないですよ。
20世紀に入り、大陸移動説→プレートテクトニクスが確立しました。
インドとマダガスカルは、大昔には超大陸ゴンドワナの一部で、プレート運動で分かれたことが判明しました。つまり、動物の分布は「陸橋なし」でも説明可能になり、レムリア仮説は学界から退場したのです。現在は神智学(ブラヴァツキーら)やニューエイジ文化に残る神話的テーマとして語られるのが実情です。
ちなみに、「海の下に“本物の大陸片”が全く無い」わけではありません。
マウリティア(インド洋の「マイクロ大陸」)やジーランディア(94%が水没する「隠れ大陸」)のような「実在する沈降大陸片」もあります。でもレムリアが想定した「マダガスカル~インド間をつなぐ大陸」の証拠は見つかっていません。ここは区別しておかないとね!
ロマンは大事だけどロマンと妄想は違うよ?
だって、あっちこっちで火山が噴火して地面が揺れに揺れて、もう世界が崩壊しそう!って時に、だれかがフッ化水素で水晶に古代文明の記録を刻む…って、現実的に考えると無理です(そもそもフッ化水素ってそんな簡単に取り扱えるものじゃないの!危険物なの!)。
あたしだったらまず逃げます。んもうてんやわんやです。あなただってそうでしょ?
それとも保護手袋や保護衣、お面とさらに眼鏡まで着用して、換気を心掛けながら息を止めて、超危険物であるフッ化水素を用いて水晶に自分達の記録を刻みますか?冷静に考えてそんな酔狂な奴がいると思います?そしてもっと冷静に考えるならレムリア大陸自体が妄想の産物なんですから、どうあがいたってあり得ないでしょこの話(´・_・`)
まぁね、自然の成長や溶蝕が刻んだ美しい模様に、ロマンや夢を馳せたい気持ちはわかります。
でもロマンは心で感じるだけで十分、石のお値段は理論と理屈で判断しましょう。
それがレムリアンシードとのいちばん健全な付き合い方じゃないでしょうか。